減損のグルーピング①
野村:さて、今日は減損の具体的な中身の話をしていくよ。
立花:はい。よろしくお願いいたします。
野村:前回の話では、減損の概念について説明したね。
立花:はい、減損とは何なのか、時価評価と減損との違いについて理解しました。
野村:今回は減損だけにスポットを当てて説明するよ。減損には現行の日本の基準だと大きく以下の4ステップに分けて実施されることになっているんだ。
- 資産のグルーピング
- 減損の兆候
- 減損の認識
- 減損の測定
今回はこのうち、特に資産のグルーピングについて説明するよ。
立花:資産のグルーピングですか。言葉から察するに資産をまとめるということでしょうか。
野村:そうだね、固定資産の減損というのは、ある資産または資産グループのキャッシュ・フローからおおむね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位で行うというきまりがあるから固定資産をある程度まとめてから減損の判定を行わなければならないんだ。
立花:いきなりついていけなくなりました。それ日本語ですか?結局まとめろってこといいんですよね?
野村:まあ簡単にいうとまとめろってことだけど、なんでもかんでもまとめればいいというわけではなくて、事業を行う上で収入と支出が密接に関連している固定資産だけを極力小さなグループでまとめろってことかな。
例えば、当社のような商社の場合、ビジネスモデルとしては商品を他社から仕入れて物流センターに商品を格納し、営業所の役割を備えている近隣支店に得意先から発注があった場合には、営業所から物流センターに情報を連携して得意先に販売するという単純なものになっている。この場合、仮に物流センターと支店が一つしかなかった場合には、それらの固定資産をひとくくりにしてしまって減損を判定するっていう判断になるのだけれど、これが全国各地に物流センターや支店が点在している場合はどうだろうか?固定資産への投資の目的とリンクさせて考えてごらん。
立花:固定資産に投資した金額以上のリターンを将来に獲得するためという固定資産投資の目的を考えると、、うーーん、なんだろう。
野村:少し難しすぎたかもね。ここでは各地域に事業所が点在しているところに焦点を当ててみよう。なぜ各地域に事業所があるのか。それは各地域の得意先のニーズや配送の効率化を考えたためだよね。要は北海道の事業所のリターンは北海道の得意先からしか得られないし、沖縄の事業所のリターンも沖縄の得意先からしか得られないということを示しているよ。このような状況では、それぞれ収支が密接に関わる地域の事業所の固定資産はすべて合算して減損の判定を行うというのがグルーピングの考え方なんだ。
立花:なぜまとめるのでしょうか。
野村:仮にまとめないと各事業所の収支から減損の判定を実施しないといけなくなるけど、当社の場合、物流センターでは売上が計上されず営業所の支店で計上されるから、物流センターは常に赤字ってことになるよね。そうしたら常に減損ってことにもなりかねない。物流センターの投資は近隣の営業所の収益に貢献していて、その収益から投資を回収する目的があるんだから、物流センターと営業所の投資は合算して考えないと投資の収支の実態を表さないんだよ。
立花:なるほど。確かに合算しないと収益を単独で生み出さない物流センターは常に減損の可能性が出てきますね。
野村:そのとおり。だんだんグルーピングがどういうものなのかイメージが湧いてきたね。
立花:でもなぜ「最小の単位」でのグルーピングなのですか?会社の固定資産全体で投資の回収について判断してはいけないのですか?
野村:そこにはグルーピングによる減損基準の逸脱を回避するという趣旨があるんだ。
例えば、ある会社の事業にA事業とB事業があって、それぞれの事業ごとにグルーピングしたケースと全体でグルーピングしたケースを考えてみよう。
そうした場合、以下の表を見ると、B事業単独では固定資産の帳簿価額が回収可能価額を下回っているために30の減損損失を計上することになるけど、A事業、B事業をまとめてしまって全体をひとつのグループとみなした場合は、回収可能価額が固定資産の帳簿価額を上回っているため減損損失はゼロとなってしまい、減損を回避できてしまうんだ。
立花:数字のトリックですね。確かにこの場合だと本来業績が良くない事業の固定資産に将来の損失が残ったままになってしまっていて実態を表さなくなってしまいますね。
野村:そう、だからグルーピングというものは大事であって、単純にまとめればいいというわけではなく、そうあってはいけないんだよ。しかもこのグルーピングは特別な事情がないと変えることができないから最初の検討がとても重要なんだよ。ということで「ある資産または資産グループのキャッシュ・フローからおおむね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位で行う」という意味と趣旨がなんとなくイメージついたかな。
立花:はい、野村さん。それでは具体的なケースについて教えてください。
野村:わかった。が、本日は時間が来たのでここまでだね。具体的なケースはまた後日説明することにするよ。
立花:承知しました。それではまたご都合の会う時間にお願います。
減損会計の概念
野村:立花君、今回は「ゲンソン」というものについて考えてみようか。
立花:「ゲンソン」ですか??
野村:そう、「ゲンソン」その様子だと初めて聞いたようだね。でも経理を担当するものにとってこれは日常用語だよ。
立花:そうなのですか??3年間経理業務をやって初めて聞きましたよ。
野村:ハハハ、まあ初めて聞くぐらいがいいのかもしれないね。決して幸せな話ではないからねぇ。でも君も3年間経理業務をやって、ようやく基本的な経理のルーティーンを一通り経験しただろうから、少しステップアップして判断が必要な会計処理についても経験したほうがいいだろう。
立花:ありがとうございます。ちょっと一筋縄にはいかない会計処理であることはなんとなく感じました。
野村:そうなんだよ、この会計処理を行うことで経営判断や投資家の心理にも大きな影響が出てくることがあるからね。とても重要な会計処理なんだよ。
立花:そんな重要なことを経理3年目の自分が判断して大丈夫なのでしょうか。
野村:そんな心配することはないよ。最終的にはこの経理部長の自分がしっかりと責任をもって検討したうえで最終判断を下すことになるからね。今回立花君にはその判断の土台となる資料を作ってほしいということだよ。
立花:承知しました。てっきりその判断も自分に任せられたのかと思い不安になっていました。
野村:そこまではしないよ。さっきも言ったけどこれはとても重要な影響がある会計処理だからね。社内に会計士でもいたらそいつにでもやってもらうんだけど、うちはにはそんな人材はいないからね。今までは自分が自ら検討していたんだよ。
立花:わかりました。それではまずゲンソンとは何か教えてください。
野村:まず、ゲンソンは「減る」と「損をする」という字を合わせて「減損」と書くんだよ。
立花:なるほど。文字からもあまり穏やかな感じはしませんね。
野村:そのとおり。関わって得なことは何もなさそうだよね。だから君を関わらせたんだよ。
立花:止めてくださいよ
野村:ハハハ、冗談だよ。さて、まず減損っていうのは簡単にいうと、固定資産の時価評価みたいなものをいうんだ。
立花:固定資産の時価評価ですか?固定資産って時価評価はしないと習ったことがあります。
野村:その通りだよ。立花君、君も結構財務会計を勉強しているようだね。確かに時価評価を実施する対象というものは決まっていて、例えば、株式などの金融商品が挙げられるね。
固定資産について時価評価と言ったのはわかりやすくするためであって、減損はこの固定資産の時価評価とは別の概念と理解してほしいね。今回はその概念の違いを説明するとしようかな。
立花:ぜひお願いします。
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野村:そもそも固定資産はなんで取得原価をベースとして貸借対照表価額になるのか、金融商品は時価評価するのかということだけど、立花君わかるかな??
立花:それなら知っています。固定資産は売却して投資を回収するのではなく、将来にわたって使用することで投資を回収するのが目的で、一方で株式などの金融商品は売却することで投資を回収することを目的としているからです。
野村:そうだね。だから固定資産は時価が投資の成果とは言えないためから取得原価で、金融商品は時価が投資の成果といえるため、時価で評価するんだね。このような固定資産の評価方法は取得原価主義、金融商品のような時価で評価する考え方を時価会計と言うんだ。
そして、毎期この固定資産を使用することで得られる収益と費用を対応させるために、その固定資産に係る減価償却費を計上することで収益と費用が対応するようになっているんだよ。結果として、固定資産はこの取得原価から減価償却費を控除した残額が、固定資産に残されている価値として貸借対照表に計上されることになるね。
立花:なるほど。費用収益対応の原則という言葉を表していますね。
野村:お、立花君詳しいねぇ。
立花:へへ、実は最近公認会計士の資格を取ろうとLACのweb講座に申し込んで夜勉強しているんです。まだまだ入門の段階ですけどね。
野村:勉強熱心だね。いずれ減損会計も勉強するんだろうけど、今回はその予習になるね。
立花:勉強と業務が密接に結びつくようでとてもためになります。
野村:いずれ立花君にご教示いただくときが来るかもしれないな。さて、話を戻すと、この考え方をベースにして、減損会計について考えてみようか。
さっき立花君が言っていた固定資産の保有目的に照らすと、固定資産というのは、将来にわたって事業のために使用して、その投資を回収、またはそれを超える金額のリターンを期待して購入することになるね。まあビジネス的に当然そういう期待はあるはずだね。
でも、事業というのはすんなりと上手くいくものばかりじゃないはずだ。つまり、当初想定したリターンを期待して固定資産を購入した場合であっても、その投資回収期間が長くて、その間に市場環境が変わってしまったり、思ったよりその固定資産から生産された製品の需要が少なくて十分なリターンが得られなかったなんてことも考えられるよね。
しかし、固定資産は時価評価なんてしないから、仮にそのまま簿価(取得原価-減価償却累計額)で据え置いた場合、将来にわたって損失がその簿価に残ったままになってしまうと考えられるね。
固定資産の保有目的はビジネスで使用することによる投資額の回収なんだから、投資額の回収が見込めなくなった場合にはその価値を減額してあげて将来の損失を帳簿価格に反映させてあげる必要があるんだ。
減損会計はこの投資の収益性の低下を帳簿価額に反映させてあげることをいうんだよ。
立花:へええ、時価評価と減損との違いがなんとなく理解できたような気がしてきました。
具体的にはどのタイミングで減損を計上するんですか??
野村:そうだね。減損を判定するタイミングは期末日とかそういう節目ではなくて、収益性の低下が判明したタイミングで実施するものなんだ。でも実務では期末決算日に計上することが多いかな。で、そのタイミングでもし回収可能価額が帳簿価額を下回っていた場合にはその差額部分を減損損失として計上することになるよ。理論的にはこれを毎期実施することになるね。
立花:あの、素朴な疑問なのですが、減損を実施する際に回収可能価額と帳簿価額を比較して計上するということに違和感があります。なぜなら、固定資産の投資で重要なのは投資額の回収であって帳簿価額の回収ではないはずだからです。つまり、仮に固定資産取得後1年目で投資額を上回るリターンを得られた場合には、その後減損を実施する必要はないのではないでしょうか。
野村:鋭い意見だね。そのとおり。言っていることは最もだと思うよ。固定資産の取得の意思決定をした役員にとってはその考えになるはずだ。だけど会計の世界では現実の常識を超越したところがあるんだ。会計ではあくまで回収可能価額と帳簿価額(取得原価―減価償却累計額)を比較することになるんだよ。納得いかないよな。なんですでに投資額を回収してその固定資産を購入した目的を達成しているにも関わらず将来減損のリスクに晒されなきゃならないんだと考えるよな。これは会計と実務の相容れない考え方だね。
立花君もLACで減損会計を学ぶ際にはいつも帳場価額と回収可能価額を比較することになるから、その度にこの疑問がフラッシュバックすることになるんだろうな。
立花:納得いかないですね。投資目的と会計の考え方とが結局リンクしていないような気がしますし。まあこれは基準で決まっているのでしょうし割り切って考えます。
野村:そうだね。おっと今日はこれから大事な会議があるんでね。続きは今度にしようか。後でスケジュール調整させてもらうよ。
あと、今日話した内容はメールに記載しておくからしっかり復習はしといてくれよ。
立花:承知しました。野村さん。ありがとうございました。
固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書
三 |
基本的考え方 |
1. |
事業用の固定資産については、通常、市場平均を超える成果を期待して事業に使われているため、市場の平均的な期待で決まる時価が変動しても、企業にとっての投資の価値がそれに応じて変動するわけではなく、また、投資の価値自体も、投資の成果であるキャッシュ・フローが得られるまでは実現したものではない。そのため、事業用の固定資産は取得原価から減価償却等を控除した金額で評価され、損益計算においては、そのような資産評価に基づく実現利益が計上されている。 |
3. |
固定資産の減損とは、資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態であり、減損処理とは、そのような場合に、一定の条件の下で回収可能性を反映させるように帳簿価額を減額する会計処理である。 |